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昨日は明け方まで上手く寝付けなくて、4回くらい起き上がっては横になってを繰り返した末、6時にようやく上手く眠れて9時半に起きた。10時半から美容室を予約していたので、20分で支度して家を出る。3号系統のバスの車内は、土曜の午前にしては人が少なくて、お年寄りは相変わらず多かった。

店について傘と荷物を預ける。少し早くついてしまったので5分くらい待って、それから一番奥の席に案内された。一か月前にドキンパツにしてくれた人と同じ方に頼んでいた。確か1年くらい前から店長を任されているとあって、やっぱりすごく上手く切ってくれる気がする。「いい感じに色が抜けてきましたね」と言われて、「実は暗い色にしなくちゃいけなくて」と伝えたら少し残念そうな声で「そうですか」と言われた。色はあれこれ迷った結果、ベージュブラウンの6にした。1か月くらいは暗い茶色がもつらしい。色が抜けると赤っぽくなる色とか、ピンクっぽくなる色も勧められたが、遠慮した。美容師側からすると、ちょっと責めた髪型とか髪色とかの方が面白いのだろうか。客側の私には関係ないかもしれないが、できることなら期待に添いたい気持ちはある。

美容室ではいつも振る舞いに困る。近頃更に目が悪くなってきたので、髪を切ってもらいながら雑誌の細かい文字を読むことは出来なくて、写真だけ適当に眺めていたらすぐに一冊めくり終わる。スマホにしても同様で、切ってもらいながら見るようなものもない。かといって美容師さんと話がはずむわけでもない。ああいう場ではどっちから、どういう内容で話しかけるものなのか。この1年ずっと鏡に映る自分を見ながらだんまりを決め込む客として振舞ってきたので、店全体に「こいつは無口なやつだ」と思われている節があり、美容師さんの方からはあまり話を振ってもらえない。振ってもらうことがあっても、美容師さんとはどういう距離感で話すべきものなのかと困ってしまって、面白い話が全くできない。こういうところで考えすぎるのが自分の悪い癖である。結局また、髪の毛の話をするほかは鏡に映り込む他のお客さんやら時計やらをきょろきょろ眺めて、落ち着かないそぶりで静かにしていた。

二つ隣の席は女の人で、さっきから担当の美容師さんと楽しそうに雑談している。少しハスキーなやわらかい声に聞き覚えがあって、横目で見たら知り合いなので驚く。数か月前までバイト先で働いていたMさんだった。今までずっとどこにいるかわからず気になっていたのが、丁度前の日に所在がわかったという連絡が先輩からあって(これは兎に角先輩がやたらするどい話だった)、二人して喜んでいたところだった。御都合主義的なタイミングの良さと、久々に顔を拝見できた嬉しさとで、何だか訳がわからなくなって、それまでずっと黙っていたのを突然ぺちゃくちゃ喋り出す客になってしまった。美容師さんは「ハア…妹さんが、髪をオレンジにしたい、いいですね…」と面食らい顔で相槌を打ってくれた。

美容室で声をかけられるのは嫌かもしれないとか、そもそも前の職場のバイトに見つかるのはどうなんだろうとか、この時ばかりはいつもみたいなネガティブ思考を全部置き去りにして、カットとカラーの合間の待ち時間に席を立って、Mさんの後ろから鏡をのぞきこむ。何ぶん髪色も髪型も前とはずいぶん変わっていたから、数秒ぽかんとした間が空いた後、「ああ!」と驚いた顔をされた。しどろもどろになっていたので何を話したかよく思い出せないが、きょとんとしている担当の美容師さんに「前の職場で一緒に働いていて」と紹介されたのがすごく嬉しかったのだけ、はっきり覚えている。

Mさんの方が先に終わって、私の席まで来てくれた。先輩の伝言もちゃんと伝えて安心しきっていたところ、連絡先を交換してくれるというのでまたひとしきり慌てた。「また落ち着いたら、いずれ」と言って帰っていく姿を目で追いながら、何だかすごくほっとした。気が付いたらカラーが終わっていて、半端なヤンキーじみた風貌が、るきさんの友達のえっちゃんみたくなっていた。嬉しくて帰る途中、色んな鏡に顔を写した。

自分にとっては突然いなくなったと思ったひとでも、当人にとっては突然いなくなったつもりがないことは当然あって、自分の中では途切れてしまったその人の生活も、知らないところでそれまで通りに(かどうかは分からないけど)続いていて、突然笑顔で再再会できることもある。Mさんに会えた喜びはもちろんだけど、それだけじゃなくて、こういうケースもあるんだよと示してもらえたことが、私にとってはものすごい希望である。私の知らないところで続いていくすべての生活が、明るく健やかであれと祈る。祈ってもよいかもしれない、と思う。