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ロン・リット・ウーン『きのこのなぐさめ』を読み終える。いい本だった。一昨日ああいう文章を書いたのは、この本に影響されてのことだった。この本の中で「きのこ愛好家」と呼ばれる人たちはみんな透明な愛情の持ち主であるらしいけど、本当にそうなんだろうか。森を歩く時にはきのこのことしか考えないし、珍しいきのこを見付けたら飛び跳ねて喜ぶし、自分だけが知っているきのこのありかは大切な人にだけ、重大な打ち明けごとをするように(実際そうなのだ)教えるし、きのこの為なら海だって超える。そんな愛情のあり方ってありうるんだろうか。だって、きのこでしょう? 読みながら疑問と納得を行ったり来たりする。十数頁ごとにあらわれる美しいきのこの写真、その微妙な色合いとか摩訶不思議な形を眺めていると、段々陶然とした気分になってきて、こんな不思議な生き物になら純粋な愛情を注げても不思議じゃないか、と思えてくる。しかしその次の瞬間には、いやいや、きのこだぞ、しかし、と後ずさる。小難しい学名がたくさん出て来て戸惑う。だけど、ともかく、著者である彼女がきのこと出会って、新しい人生をはじめることが出来たことは確かだ。それが何だかものすごく、希望っぽい。挿話を積み重ねるような本書の構成のおかげで、著者が通ってきたきのこ王国のぐねぐね道を一緒に辿れたように思う。もともと人類学者である彼女の、きのこコミュニティへの視座もすごく興味深かった。どういえばいいか分からんが、こういう本が評価されているのもまた、希望っぽい。いい本だったな。