12/9

大学時代の友人とおよそ二年半ぶりに会う。学部が同じで興味が近く、各々勝手に登録した講義が毎度三つか四つは被り、自然と隣同士で座った。私の卒業が一年遅れ、最後に会ったのは友人が地元に帰る前の日だったか、余ったトイレットペーパーと魚の缶詰を受け取った。こうしてわざわざ遊ぶのは初めてで、待ち合わせ場所に着き、待っている時間も何となく面映く、ベンチに斜めに腰掛けて目を瞑った。時間ちょうどに友人は来た。

大学近くでご飯を食べようということになり、何が食べたいか聞いてみると「イタリアンとかそういう、海外の特殊なのはちょっと」と言うのでウーンと悩む。ハンバーグとも迷ったが、結局本人の希望もあり、うどん屋で丼ものを食べた。こうしてお店で向かい合ってご飯を食べたのも、今までに一回あったくらいだと気がつく。近況報告など。

退店、伏見稲荷大社へ向かう。私はICカードで、友人は切符を買って改札を入った。準急に乗ったが三条で5分くらい止まったままなので怖かった。特急に乗って乗り換えた方が早かったかも、と謝ると、いいよ、ゆっくり話そうと言われる。目の前のベビーカーに座っている赤ん坊が、何回も泣きそうな顔をして、その度こちらを見て真顔に戻るのでおかしかった。

電車を降りてからずっと人が多い。修学旅行で来て以来初めてだったから、こんなに観光地めいていたっけと思う。きっと境内目の前のJR稲荷駅で乗り降りして、周りをぶらぶら歩く時間がなかったんだと思う。本殿で手を合わせた後、地図看板を確認し、行けるところまで行こうと歩き出す。なんか、ものすごく歩いて、目標にしていた「三の辻」だと思っていた場所に着き、看板を見ると二つくらい前のエリアなので、見晴らしのいい景色を背にして崩れ落ちるようだった。友達が図書館で借りてきたガイドブックには「大人のプレミアム旅」と書いてあったので、これが本当にプレミアム旅か!?といちゃもんをつけた。青いウィンドブレーカーのおじさんが「この看板に描いてることをそのまま信じちゃいけない、あと15分で頂上だから」と謎のアドバイスをしてくれて、そんなら行くかとまた歩き出す。途中の茶屋で買ったペットボトルのお茶が250円もした。今日は最近で一番暖かい日で、コートもいらないくらいだったが、山に入っていくにつれ気温が低くなり、かと言って着て歩くと暑くて汗をかき、それならと脱げば汗が冷えて寒くなり、着たり脱いだり忙しかった。

ひたすら鳥居をくぐりながら、仕事の話や、大学時代のことや、何やかや話す。歩きながらのことだからそんなに頭が回らない。久々で、もっと話すべきことがたくさんあるようにも思えたが、こうしてなぜか一緒に山登りして、途中で出会った猫をあやしたり、落ちてくる枝にびっくりしたり、それ以上に大事なことなどない気もした。あと少しで頂上に着きそうな勾配のきつい階段で、上から人が降りてきて、私たちの後ろから登ってくる知り合いに「ぜんぜん頂上って感じしない!がっかり」と大きな声で言っていた。そ、そんなー!といいながら駆け上がる。一時間かけて目指した山頂は、全然頂上って感じしなかった。

下山、参道の茶屋で休憩。私は餅の入った甘酒を飲み、友人はきなこオレを頼んだ。甘酒飲んだら、帰りに最寄り駅から家まで運転できなくなるから、との理由。甘酒はアルコールほぼ入ってないよと言ったが、なんか不安だからやめておく、ということだった。

駅に移動し、土産を買い、てっきり夕飯を食べるつもりでレストラン街に向かったが、きなこオレでお腹いっぱいだからと断られ、その辺のベンチに座ってだらだら喋った。そういえば二年半前に最後に会った日にも、どこかでお茶をと誘ったけど、今日はやめとこうと断られたのだったか。彼女が京都に来たことではじめて、ああ本当に、大きな脅威が過ぎ去りつつあるのだ、と思えた。三年もかかったのか、とも。

当初に乗るつもりだった電車より30分早い便で帰っていった。聞けば家族旅行以外で遠出するのは初めてだったらしく、となれば私は初めて一緒に旅行した友達で、何となく誇らしい。すぐにとはいかないかもしれないけど、また会える気がする。

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11/28

先週から昨日にかけて思い出すだけでちょっと体が光るようなことが沢山あって嬉しかった。それなのに、実家にいる間母にやさしくできなかったことばかり頭に引っかかって俯き気味になっている。

寝ても覚めてもわんわんとまくしたてていて、こんな人だっけか、と思う。いちいち取り合っていたらおかしくなりそうなので、テレビやスマホに熱中しているフリで聞き流しているうち、ああ実家に暮らしていた間もずっとこうだったな、と思い出した。こないだの母は調子がよくないタイミングで、妹も初めは楽しく受け答えしてるんだけど、話しているうちにだんだん雲行きが怪しくなり、終わりには大抵口げんかになった。駅まで車で送ってもらう間も何かずっと言っていて、私たち新幹線に乗る前に一服していくからとあてつけのつもりで言ったら、ママを仲間外れにするんだ、寂しい、もういいと言って帰って行った。

母はとにかくいつも何かを心配している。心配が高じて私たちの行動を制限したがったり、「外では言えないようなこと」を口走ったりして、その直後にはいつも、多分きまりが悪くて、ちょっと冗談を言おうとするんだけど、それもなんか間違えて、私たちの神経をわざわざ逆撫でするようなことを言う。本人にそのつもりはなく、とにかく不器用なのだ。またそれぞれ自分の部屋を持っていないので、話し続ける母から逃れて一階の居間から二階の仏間に移動することはできても、母は私たちを構いたくて、すぐに下から大声で呼んだり、上がってきたりしてしまう。実家に帰ると一人になれる場所がないこと、それが今になって辛い。辛いと思ってよかったのだと知った。

一緒に暮らしている祖母、つまり母の母も、やはりかなり不器用な人だけど、気が強いし、わりに一人が好きだから、付かず離れずで共同生活が営める。しかし母は、私たちに本当にやさしい。祖母は母に対して厳しい言葉を吐くことが多く、気の弱い母はそれが嫌で、私たちのことはものすごく甘やかす。わるいときには、8つの子どもみたいに構う。私にはもうそれがきつい。きついなーと言ったら、いい時はわかってくれるけど、なんで!こんなにしてあげてるのにヒドい!と子どもじみた声を出して嘆くこともある。面倒になって、またテレビに熱中するふりに戻る。

いちばんつらいのは、母の話をまともに聞きつづけてあげられる人が、母の周りに全然いないことだ。末っ子として育ってきて、やることなすこと、進学から結婚、何から何まで全て親や兄たちに口出しされてきた。母の話を終わりまでただ聞いてくれる人がいなかったから、私たちの話も途中で遮ってしまうのだと思う。私と妹は大学進学以降、お互いをよき話し相手、よき友人として再発見することができたし、友達ふくめ真面目に話を聞いてくれる他人が幾人かいてくれる。しかし母には、あの寂しがりには、やさしくしてくれる赤の他人が周りに全然いない。楽しいことに連れ出してくれる他人が、愛してるよと伝えてくれる他人がいない。私は母に親切にできない自分をわるいとは思わない。あの人には我々家族しかいない、とはけっして思わない。しかし、彼女が今いる現在は彼女が全部自分で十全な選択をした結果では到底ないから、つらい。選べなかった過去について愚痴を言われるたびにきつい。これは母と自分の問題を切り分けられていない証左になるのだろうか? 家族以外の他人を信頼できずに生きることは、とても息苦しいと思う。やるせなくて、動けないような気持ちになる。

11/19

本当は友達と三人でドライブに行く予定だったが、企画したやつが急に入院することになり、頓挫した。行くはずだったもう一人と、知らない駅前のでかいスーパーで待ち合わせして、ぶらぶらとお見舞いに行く。身内以外のお見舞いが初めてで、何を持っていけばいいか分からず戸惑ったが、ポケモンが好きだったのを思い出して、行きしなにポケセンに寄りフシギバナのぬいぐるみを買った、並んでる中で一番可愛かったので。もう一人に何を持ってきたか聞いたら遊戯王のパックを紙袋に入れてきていた。相手は25の大男である。

歩道橋の上を話しながらぷらぷらと行く。中心街から一キロほどしか離れていないその町は人通りが少なく、海風でしゃんと寒くて、光が充満して明るい。なんか正月みたいだとしきりに言った。海の近くの病院に辿り着き、警備室に面会申し込みをしようとしたら、予約してないとだめだと言われ、応対していた警備員さんの後ろにいた別の人から、そもそも家族以外はだめですよーと言われ、断られた。そんな話は全然聞いてない。入院している張本人に連絡を入れると、やっぱり全然聞いてないということだった。二時間かけて来た静かな病院の前で、どうしようもなくて腹を抱え笑う。

LINE越しに立ち上がる申し訳なさそうな表情で、せめて一階に降りられないか聞いてみるというから、少し待った。手術は無事に終わり、数日もすれば退院のはずで、今度のお見舞いも結構気軽に来てしまったが、いざ会えないとなると少し心細い気がして、もう帰ろ!焼肉行こ!とやけになった。そのうちにまたLINEが来て、やっぱり下に降りるのも難しいということだった。

来た道を引き返していたところ、病院近くの温泉施設の前まで向かえ、と連絡が入る。こえーよーと話しながら、海に面した道を通ってぐるりと病院の向こうへ周る。散歩しているポメラニアンと互いを気にしながらすれ違った。施設の前に着いたと言えば、今度は日陰から出て、旗の下に立て、と。言うとおりにして、病室のある5階を見上げると、あー見える見える、人影が。かろうじて誰かいるのがわかるくらいで顔は全く見えないが、手を振ると律儀に振り返してくる。あんまり面白くて大きな声が出た。こっちが元気づけに行ったはずなのに、この人のこういう気遣いはいつもこちらを明るい気持ちにしてくれて、ありがたい。明るい気持ちで駅まで戻って、美術館に行き、焼肉に行った。この日のことを丸ごとそのまま、なるべく長く覚えていたい。

11/17

柿と鶏肉の照り焼きを作って食べた。

https://www.kyounoryouri.jp/recipe/19008_柿と鶏肉の照り焼き.html

煮詰める時間のみきわめが甘くて水っぽくなってしまったが美味かった。切った直後はつんととがっていた角がとろりと溶けてまるくなった柿。

中途採用で入社した社員が隣の席に越してきて、1週間以上が過ぎた。もう30年ほど業界にいるというからベテランなのだが、物腰穏やかで控えめで、なんか理科の先生みたい。最近よく漫画を貸し借りしていて、今日も一冊戻ってくるかと思いきや、「あんまりすぐ読み終わっちゃったから、もう一度読みます」とのこと。借りた漫画の袋には一筆箋やカードが入っていて、ただ貸します、というだけの事務的な挨拶が書かれている。

11/13

テトリスのブロックがどんどん落ちてきて処理しきれず、首だけ出してやっと息できるくらいの隙間を最上部に残して、ぎりぎりでアウトを免れているような気分だった。ブロックはきわめて普通の速度で落ちてくるので、単にこちらの処理能力の問題である。もしくはフィールドがそもそも狭すぎる。残った空気をひゅるひゅる吸いながらメールの群をかき分けているとまた新しくメールが届き、開いてみたらいつも仕事を頼んでいるデザイナーさんからで、「こないだ飲み会で勧められた音楽なんでしたっけ、酔っ払って全然覚えてないです」とのこと。棒のブロック!一気に四段か五段は消えて、嬉々として関係ないアーティストまで勧める。そうこうしてるうちに昼になり、夜になった。帰りながら、職場でもらった柿の袋の重みを嬉しく思う。

今日から急に寒い。朝は何とかもったが、昼前ごろから冷たい雨が降り、昼飯を食いに出た瞬間からもう耐え難い。心の中で許せねえ…とか、あんまりこちらを舐めるなよ…とか呟きながら悪辣な顔で歩いていたら、先に退社していたアルバイトの子がジャンパーを頭からかぶって信号を待っているのに出くわす。「大丈夫?」とか「風邪引かないで」とか益にもならんこと話しかけて、とっさに傘を貸せなかったのが実に情けない。会社に戻れば置き傘だってあったのに。その後すぐに雨は止んだが、止んだとて。私ばかりがとんまで不親切だという気がする。昼は海老カレーを食べた。美味かった。

考えなければいけないことが二つくらいあるので素直に部屋の暖房をつける。

11/8

昨晩やたら落ち込んで2時までうだうだと起きていた。風呂上がりに裸のまま歯を磨き、うつむいて口を濯ぐときに乳首の影が二つ腹に落ち、その形が間抜けで面白かったので声を出して笑った。今日は朝から健康診断で、合法的に仕事をサボれるので前から楽しみにしていたが、蓋を開けてみるといつもより早く起きなければならなかった。コーヒーを淹れてたらバスを一本逃した。資源ごみは出せた。

健康診断のなされるがまま感、たらい回しにされる感じがスタンプラリーみたいで好きだ。人が少なかったらもっといいのにと思うが、水曜の朝から賑わいまくっている。前回待ち時間が結構あるのを知らなくて暇したから、今度は新書1冊持っといた。会場備え付けの本棚にNANA全巻揃ってるのに気づき惹かれたが、NANAは他のとこで読んだらいいだろ。テレビはNHK、国内で承認されている小児がんの薬が海外に比べて少ない問題を特集していて思わず見入る。それが終わるとみんなのうた、それからグレーテルのかまどと続き、「サザエさんの焼き芋」という素晴らしいテーマだったが途中で名前を呼ばれてそのまま見損ねた。

健診を終え、せっかくだから甘美なるサボりを目一杯享受しようと会場近くのカレー屋にキビキビと歩いて向かったものの、開店直前に着いた時点で5人くらい並んでいて、キビキビと諦めた。代わりにバス停近くで味噌団子を買って食べた。まだ暖かい。柔らかい。甘じょっぱい。ありがたいもの。

午後から出社して、大の大人5人でExcelの画面を見つめて20分くらい首を捻る時間がありおそろしかった。初めは面白かったがだんだん痺れが切れてきて、全員追い払って手元の紙にあれこれ書きつけながら数字と格闘し、結果、初めに入力した数値が間違っているという何ともあっけない真実に至り、脱力。他にすべきことが終わらずしばらく残業した。一瞬スマホをなくしたかに思われたが昼飯食ってたサイゼにあった。いっそ一度くらいなくしたほうが健康にはいいのではとよぎったが、出てきたら心底ホッとする。

帰宅後飯を食い、それから編み物。最近毎日1話ずつアマプラ上でレンタルして見ていたPOSEシーズン1を見終えてしまった。達成感と疲労にひたり、風呂に入らないまま毛布にくるまって日記を書き、途中で寝落ちた。たった今起きて、昨日茹でた鶏むねをまな板の上にそのまま放置していることを思い出して、もう布団から出られない。

11/6

2日間の休日出勤を終えてまた新しい月曜日。昨晩の打ち上げで日本酒をコップに並々二杯飲んだためかずっと心がざわざわしている。他人に対して何か本当らしいことを言いえた気がする翌日は誰にも会いたくないし誰とも話したくない。1人でずっとそのことばかり考えて反省したりしたい。飲みの場で開示する自分と普段の自分との間に整合性が取れているか不安、というのもある。や、ていうか終わりの方めちゃくちゃ酔っ払ってしまい、わざわざバス停まで一緒に来て、私の乗るバスを待っていてくれた先輩たちに対し、上半身を体操みたいにぐるぐる回してみせたのを覚えていていたたまれない。帰宅後、LINEで後輩を飯に誘ったのはあんまり覚えてなくて、朝になって気づいた。結局飲みすぎと低気圧か。

とりあえず出社して、メールなど書いて送って午前中をしのいだ。「つまらないことは気にしないで」という返信があり、その明確さがありがたい。

昼は王将であんかけ焼きそばを頼む。待っている間日記を書き、食べながら『トランスジェンダー入門』のトランス医療の章を読む。午後もぼうっとしてたら過ぎた。今日は欠勤者も多くなんとなくみんなダウナーな様子。

帰りにスーパーで買い物しながら何か食べたいものはないかと考えた時、かぼちゃプリンが降りてきた、はっきりと。食べたいものがパッと思いつくことがあまりないので嬉しく、うきうきとコンビニに寄り、二つあるうちの高い方を買った。モンブランクリームが乗ったやつ。自転車を会社に置いてきたので、明日はヘッドホンをして、音楽を聴きながら歩いて出社しようと思いついて、さらに嬉しくなる。本当言うと休みたい。