6/26②

バイトの昼休憩には近くのパン屋で二つパンを買って、公園のベンチに座って食べる。あまりに暑かったり寒かったり、あと雨が降った時なんかはコンビニでなにかしら見繕ってバイト先の食堂で食べる。しかし大体公園で食べる。食堂には社員さんもいて、知り合って三年にもなるのに未だに上手く話せない。私はバイト先に随分馴染んだけれど、バイト先は一向に私に馴染もうとしない。今日は少しだけ喋れてうれしかった。PCをペラペラのキャンバストートに突っ込んでいるのを見られて、「危なくない?」と言われたのだった。しかしともかく、大体公園で食べる。

以前まで二階建ての古いアパートがベンチを見下ろす形で建っていたのに、いつの間にかきれいさっぱり消えて、草っぱらが広がるばかりになった。玄関先にゴミが溜まっている部屋が幾つかあって、いつも全然人気がなかった。春が来るのと同時に溶けて、分解されて、土壌になったのかもしれなかった。そんなわけはないけれど。

そんなわけはないけれど、今日また久方ぶりに訪れたら、見覚えのない紫陽花が二株アパートの跡地に生えていて驚いた。紫陽花が一番好きだから、今までずっと見逃してきたなんてことはないと思うけれど。土でなければ、紫陽花に生まれ変わったのかもしれなかった。雨が足りないのか、薄紫が少し茶けて、母の下着を思い出させた。

こんな季節にパンなんて暑苦しいもの、やめておいた方が得策だけど、コンビニに行くのにわざわざ横断歩道を渡るのが癪で、結局いつもパンになるんだなあと、思いながらもそもそと食べた。食べ終わって、目の前のさるわたりの曲線があまりに寝心地よさそうだったから、周りにひとのいないのに乗じて、だらしなく寝転がった。さっきまで曇っていたはずなのに、急に太陽が出て来た。マスクを目まで引き上げてしのいだ。最近聴き始めたサニーデイサービスを何となくスマホから流していた。知らない曲を聴いている時というのは、いつもより時間の流れが遅くなるような気がする。圧縮されて閉じ込められた時間の中に、一瞬入るのかもしれなかった。よくあるタイムトラベルもので、あっちの世界で何年も生活したはずなのに、戻ってきたら五分しか経ってなくて驚く、みたいな。3曲分が一時間にも感じられた。遅れないようにバイト先に戻った。

夾竹桃の花は先に下から開くのだろうか、この前下をくぐった時は手に届きそうな場所に沢山咲いていたけど、今日見たら葉ばかりだった。向かいの歩道から、六月の遠慮がちな日を浴びてなお晴れがましい、万朶の白い花を見た。