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帰省三日目ともなると、手持無沙汰を通り越して、時間の方で勝手に早送りしてくれているような感覚に陥るのだ。実際、昨日おとといと暇だった時間を思い出せないのである。このまま永遠にこの家の中で、出された飯を食い、茶を飲み、教育テレビを見るともなく見ながら、母と妹のオチのない話に「ふおう、ふああ、」と曖昧な相槌を打ちつづける暮らしが続くのではないかしら?外界との隔離生活の果て、自発的に動くことを忘れた私は醜く肥えて立ち上がる事すらできなくなり、家内で腫物扱いを受けながら一日中座椅子にぼてり、ともたれかかってビスコを約三箱むさぼり喰い、ときたま「ゴハン、タベタイ……」「ネタイ……」とねだる以外の言葉を忘れ、しかしその仕草が案外母性本能をくすぐり、いっそチャーミングでかわいらしいともいえまいか、と気づいた親族がYouTubeにup、敏腕ゆるキャラディレクターの目に留まり、某T区の非公式ご当地キャラ「びすこってぃ」としてデビューした途端に巷で人気爆発、ブロマイドやLINEスタンプは売り上げ上々、区内の和菓子屋はこぞってびすこってぃ饅頭(山芋を練りこんだ生地に粒あんのはいった至極シンプルな代物、決してコーヒーと一緒に食べておいしい奴ではない)を売り出しこちらも新たな名物として定着、TVやラジオへの出演も果たすなど新たな人生を歩み始めた私はしかし本来そんなこと一度だって望んでいない、ただ日々をのんべんだらりと、誰にも知られず静かに過ごしていきたかっただけなのに、しかし口から出る言葉は「ネタイ」「タベタイ」そればかり、周りの大人は貼り付けた笑顔で「はいはい、ご飯ね、お布団ね」と私にあてがう、そうじゃないのに、そうじゃないのに!

嗚呼、くわばら!

 

このように家の中でじゅぶじゅぶと過ごしているとねじけるばかりなのである。今日は平成最後の日らしい。そこの図書館が開いているそうなので、昼餉を食べたら出かけようと思う。