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全部だめだ。全部だめなので文章をつくる。全部だめなときには文章をつくって、時間に任せきりにしないで、過ぎていく昨日を早いとこ物語に落としこむプロセスを自分でやってしまわないと、いつまで経ってもズルズル引きずる。荒井由実には到頭なれない。

昨日は人の家にいた。人の家で大酒を飲み、ビールを吹きこぼし、キャベツから出て来たナメクジをもてあそび、冷凍庫に入っていた椎茸を勝手に煮て食い、家主不在の間に置いてあったウィスキーを勝手に開けて飲み、好きな先輩に電話をかけ、あきれて切られ、泣きながらケーキを食い、その辺にあったポップコーンのコーンを勝手に鍋につっこみ、注意されていたにもかかわらず使用済み油を使い、焦げだらけのポップコーンを食わせ、24時過ぎに歌いながら帰った。最悪である。遠山の金さんだってどこから成敗していいかわからない。知り合い全員私の昨日の愚行を既に知っていて、軽蔑しているに違いない。根拠はないがそういう気がする。そういう気がして布団の中でフルフル震える。無配慮無思慮でもう全部最悪だ。

誘われた時点で断ればよかったのだろうと思う。こういうご時世ですからって、真っ当にして完全な理由で断っちまえばよかったと思う。久方ぶりにLINEが続いて、こっちからいい塩梅で打ちとめてあげなくちゃとタイミングを見計らうのではない、苦しくないやり方でLINEが続いて、浮かれぽんちになり果てていたから、「来る?」と聞かれてすぐに請け合った。自制心も倫理観も見ないふりだ。呆れてものも言えない。

色んなひとに迷惑をかけて、無事に帰って翌日起きて、全部ありありと思いだす。一番最悪だったのは、昨日がとても楽しかったことだ。電話を掛けた先輩は、きちんと家の中に居て、一人で家にいる筈だった私に気遣いのLINEをしてくれて、それがどうだ、電話をとったらふざけた酔っ払いが出て来て、その向こうには幾人かの友人がいて、心底馬鹿らしいじゃないかそんなの、軽蔑されて当然で、だから今日フォローのLINEを送ろうにも、何を送っても今更という気がして、そもそもチャット画面を開くのが恐ろしくてたまらない。どれだけ嫌な思いをさせたことか。私は!とても!楽しかったのに!

起きてからずっと昨日の事を考えている。あの場にいた人がどんなふうだったかを思い出そうとしている。あの人は私が酔っぱらうときには絶対正気を保ってて、困った顔でいさめ役にまわって、本当にずるいと思う。会った翌日は必ずと言っていいほど、振られた気分で一日つぶす。別に何事もなかったくせに。具体的な行動に出た事なんかほとんどないのに、なぜか会うたびに失恋している気がする。例えば今携帯電話をひらいて、電話アプリをタッチして、発信ボタンに触れたならば、今日は一日暇だと言っていたあの人はきっと出る。私はまた一人で酔っぱらったふりをして、へべれけみたいな声を出して、「オイオイ結婚してくれよ」と戯れたならば、呆れた声で「やだよ」と断って、私が「そうかー」とかって答えて、そうしたらそんなに傷つくこともなく、しかしきちんと伝えた上で断られたことにして、すっぱり全部やめられる。実に簡単なことである。こんなに簡単なことすらできない理由が、自分でも全くわからない。

2週間である。2週間たてば物語になって、恥や自己嫌悪の輪郭もぼやけて、ついでにヤツのことも思い出さなくなる。でも多分、経験上、どうしたって2週間は要るので面倒だと思う。反省期間も2週間くらいとって、人に会わない方がいい気がする。そう考えると、2週間が途方もなく長い時間に思えてくる。私の好きな人たちが心身ともに健やかである事を、言い訳みたいに願ってしまう。