ここ数日不規則な生活が続いていけない。何だか実感の薄いGWはずっと曖昧な曇り続きで、外出する気は端から起こらない。自然昼と夜との境目も曖昧になっていく。そろそろ授業が始まるし、発表の一番手も任されたし、ちゃんとする、ちゃんとしなきゃ、といいながらindigo la endを聴いている。川谷絵音の「離れ離れ」が「ハヌァレパヌァレ」に聞こえることで、果して友達と笑いあったのか、それとも一人でくすくすとおかしがっていたのか、よく思い出せない。思い出すのはあまり得意でない。
昨日何もできなかったのは、そもそも朝まで友人と先輩とビデオ通話をしていたからで、カーテンの隙間からじわじわと曙光が侵入しつつあることに、薄々気づきながら切れなかったのは、本来一人でいるべき時間を共有してしまった者たちだけに許される正直さ、やけくそとも言い換えられるあけすけさでもって会話するのが、単純に楽しかったからである。昔怖かったものの話とか、小さい頃から聞いてきた音楽の話とか、持ってたハッピーセットの付録の話とか。20世紀少年に出てくる包帯ぐるぐる男が（映画を見てもないくせに）ずっと怖くて、長らくトラウマだったこと、身内以外の他人に話したのは初めてかもしれなかった。こういう徹夜は久々だった。
一度寝て昼に起き上がって、一昨日祖母から送られてきた傷みかけの枇杷とグレープフルーツと不知火を、3時間かけて全部ジャムにした。ちょっとだけ本を読んでみたけど何だか身が入らなくて、妹に電話して、ちびまる子ちゃんを観ながら一緒に夕飯を食べた。初めて作った餃子は、包むところまで完璧だったのに、焼く段階で大失敗して、やけに油っぽくてスープの足りない水餃子みたいになってしまった。妹のいいところは、どんなにまずい料理でも、「何か変」とはいいながらある程度おいしそうに全部平らげるところである。彼女をパートナーに持つ人は幸福だろうと思う。去年は始終言っていた「彼氏欲し～」を久しく聞かないが、「痩せて～」は前にもまして言うようになった気がする。「一か月で10キロ痩せようと思ってたんだけど、それは無理だってわかったから、3キロにしようと思う」という言葉に、私は返事のしようがなくて、「ああそう」とフライパンの上を見つめながら返した。ちびまる子ちゃんはさくらももこ原作の回で、ナレーションが多いのと、紙芝居屋の人相が悪すぎるのが気になった。お小遣い30円とか、黒電話とか紙芝居屋とか、これから何年先の子どもまで通用するんだろうなとふと思う。あと10、20年もすれば、こうしたものたちは「両親世代のモノ」どころか「祖父母世代の旧弊」になる訳で、それを思って寂しくなる。
夕方から勉強するつもりが、今までに聞いてきた音楽を聴きなおしはじめたら止まらなくなり、夜中までかかってせっせとプレイリストを作っていた。30日かけてお題に合わせた曲を紹介する、みたいなのがtwitterで流行っているらしく、朝まで話していた先輩が30日待てずに一日で一気に決めてしまった曲の並びを見せてもらって、完全に触発されたのだった。同時に中高生のころ聞いていた音楽を色々と思い出して、危うい記憶の断片を検索スペースに打ち込んで、懐かしいイントロやMVにもんどりうった。JCDがOP・EDで宇宙まおとかめ組を打ち出していたのは2014年とか15年あたりだったと思うんだけど、その頃が一番雑食的に、何でもかんでも聞いていた時代で、チャートに乗るような流行りの曲も、今どうしてるか分からないインディーズバンドも、引っかかったら全部聞いた。とはいえ聞く手段なんかyoutubeとitunesの試聴機能くらいしか持ち合わせていなくて、何しろ情報に疎かったのだ、同世代のサブカル好きの足元にもおよばず、いいと思った曲は大抵、メディアに取り上げられるようなアルバム表題曲とかばっかりで、他の収録曲は全然知らない。その代わりフルで聞けるものは歌詞もコーラスも全部覚えるくらい聞きこんだと思う。今みたいにサブスクリプションで全部聞けるようになることなんか、想像もしてみなかった。
正確に思い出すことには時間と体力と根気が必要だということを改めて思い知る。ふとした瞬間に全部よみがえる、とか、よく分からない。苦労してよみがえらせた記憶だって、全部が全部輝かしいわけもなく、寧ろ思い出すべきじゃなかったものの方が多い。バンドの新譜に詳しいことも、アニメをよく見ていたことも、純粋な趣味というよりは、好きな人間たちとのつながりを保つための努力の一環だったと思う。見当違いで、必死で未熟で、目も当てられない。そういう時間の上に今があるという、当然至極の事実にいまさら思い当って、バカみたいに驚く。17歳最後の日にBaseBallBearの「17歳」を聞いたこととか、ステージ上のあの子がベースを弾くKEYTALK、汗だくのあの子があんな笑顔をすることを知らなくて、モッシュにもまれながらものすごく嫉妬したこととか、全部本当に、私の身に起きたことだった。取り出して解凍して蓋を開けて身もだえ、もう一度丁寧にジップロックして冷凍庫に戻す。いずれまた取り出すことがあると思う。
