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油断してるとすぐに飲まれる。自分の好きなものを体系だった言葉で説明したり、思い出せたりつなぎあったりできる人を、ねたんで心で突き放す。「これが近頃流行りの……ほう、」とか「そりゃまあ貴方、賢くていらっしゃる」とか呟いて強がり、見苦しくっていやになる。私の知ってることは私の中にしかないでしょう。私の知らないことは私の中にないでしょうに。

できないことがだめなんじゃなくてできるとちょっと嬉しいんでしょ。知らないことは責められなくて知ってるとちょっとお酒が美味しいんでしょ。あのひとが何か自慢したり、誇示したり、ましてや君をおとしめようとしてるわけじゃないこと、わかってるでしょ。わかっちゃいるけど、あのひととわたしの何が違うかを、考えてくやしくて、「昼ご飯を食べるのに適した日向を探すことにかけては私の方が上手にちがいない」とか、一つでも思いついたら得意になってバランスとるんでしょ。バランス取れてないんだってば。平均台から今にもおっこちそう、ああ、酩酊、酩酊!

 

イヤね!ほんとに、すぐに忘れる。いろんなこと。こういう話を長々してたら、私の妹はすごく怒る。「お姉ちゃんの話は抽象的すぎて、3分もすれば飽きちゃうよ」って。この前車の後部座席で眉をひそめて叱られた。フン、分かってるじゃないか、とガムを噛みながら鼻をならす。

具体的。今日一番具体的だったことと言えば?「伊藤万理華はほんとにかわいい」。それじゃあちょっとたりないかも。「伊藤万理華の前髪はほんとにかわいい」。前髪、の部分に100具体的ポイント!私の優勝!あたりは荒野。縹渺たる荒野。見渡す限りのイネ科の植物。空は灰色。嵐が近い。目に鮮やかなのは目の前の早押しボタン(プラスチック製)の赤、そいつが鎮座する腰の高さの箱の青、わたしがつけてるださい蝶ネクタイの黄色。どんなに風が強かろうが、ひとり「わかった」と明朗に宣言して、うやうやしい様で右手でボタンを包み込み、ピンポン!の訪れを待つ。999999999ポイントたまらないと、元の世界には戻れない。それまで白い米しか食えない。脚気になっちゃうその前に、いそいで!わたし!プリーズ・アンサー!どうしてそんなに、穏やかに笑っていられるの?

 

勝手知ったる言葉を弄して戸惑わせるだけならこんなに簡単なのに。明日もちゃんと本を読もう。一年後にはきっともっと賢いし、死ぬまでにはそれはもうかなり、カラスと同じくらいには賢くなれていると思う。そうだといい。